あどけない貴女が 美しく時を結ぶ

静に目を閉じると 忘れじの情景が浮かぶ 聞き慣れぬ病ゆえ 夢が儚く散って逝く 霞む空を見上げて 呆然と立ち尽くした日 殺風景な部屋で 泣き尽くした寒い夜

あれから歳を重ね 視界の霧は晴れていた

麗しき容姿と 不自由を纏う身体 寡黙な貴女が 時折見せる微笑みで 憂慮な私を 優しく癒してくれる 過ぎゆく季節と 至福に満ちた日々

九年目の二月が 無情にも別れを告げた

慌ただしい病室 冷たく響く機械音 私が声を掛けても 小さな手を握っても 目は一点を見つめ 荒々しく息をしてる 貴女の暖かい手を 握る私の震える手 

貴女に届いた 私の貴女を呼ぶ声

開いたままの目から 一粒の涙がこぼれた 私はその涙をそっと小指で拭いた 回復の兆しで 不安が安堵に変わり 嬉しさのあまり 私には笑みがこぼれた

数時間後に息途絶え 機械音も止まる

貴女は目を閉じて 深い眠りに着く 顔は愛らしいまま 頬は冷たく変わってく
 動かぬ冷たい身体 閉ざされた目と口 止まらぬ私の涙と 保てぬ平常心

私を包む 漆黒の絶望 昏くて動けない

貴女の異変に 気づかなかった私を責める あの時私と貴女が 変わることが出来たなら 貴女に未来があった 残る不甲斐なさと後悔 あの涙の意味を 私に教えて欲しい

大人びた化粧の貴女 唇は薄紅色

体の回りには 貴女が結んだ百合の花達が 優しく寄り添い 笑顔で咲いている とても似合うお洒落な 赤と黒の服を着て 戻れぬ世界へ 私の手紙をもち旅だつ

貴女の姿は 帰りにと共に灰になる 

写真のあなたが 思い出と私を結ぶ 静に手を合わすと 生前の風景が浮かぶ 途切れた赤い糸を 必死で手繰り寄せても 悲しくなるだけで あなたに辿り着けない 

いつもの車椅子 あなたを映す四月の桜 

見たれた服に着替えたね すぐさま抱き抱えて あなたの体温を感じ あなたを見つめる私 今までに見たことのない 可愛いらしい笑顔で 私の事を見てくれた 嬉しい涙溢れ止まらない
目が覚めそれは夢 枕元の写真

偶然にも時計の針は あなたが息途絶えた時間 心の中で生きてるよと 伝えにきたんだね 私の闇を優しく 照らしてくれたんだね  次の春が来るように 前を照らしてくれるんだね

 私のあなたが 美しく人を結んだ 

静に目を綴じると 楽しい風景が見える 聞き慣れた笑い声 夢に向かうあなたが居る 晴れた空を見上げて 微笑む私とあなた 賑やかな部屋で 十本の蝋燭と あなたの誕生日

短い間だったけど あなたとの仕合わせが幸せだった
次に産まれる時は障害のない体で生涯過ごそうね 
産まれる変わっても同じ様に出会おうね 

いつか私もあなたとの元へ行く 手紙の返事はその時ね

2016 3

 

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